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野菜・果物の健康維持機能に関する研究動向

3. 主な果物の生理機能

c. ブドウ

ブドウは世界でもっとも収穫量の多い果物で、世界各地で幅広く栽培されています。機能性成分としてはスチルベノイド、アントシアニン、カテキン、ジヒドロフラボノール、フラボノール、プロアントシアニジンが含まれています。ブドウの機能性研究は、いわゆる「フレンチパラドックス」を契機に大きく進展しました。これは、フランスでは動物性脂肪の摂取量が他の西欧諸国よりも多いにもかかわらず心臓血管障害による死亡率が低いことに、赤ワインの飲用が寄与している 1), 2)というものです。これを受けて、ワインに含まれる成分、特にポリフェノールに着目した機能性研究が行われるようになり、最近のブドウの機能性をめぐる研究では、これらのうち、特にレスベラトロールとプロアントシアニジンが注目されています。

ぶどう 果皮に含まれるスチルベノイドの一種であるレスベラトロールは、動脈硬化や発がんの抑制に効果を持つことが示されていますが、これらは、抗酸化作用、一酸化窒素の産生促進、血小板凝集の阻害、HDL-コレステロールの上昇などを通じてのものであると言われています。これらのメカニズムのいくつかは、炎症反応の抑制を通じて説明できることが示されています 3), 4) 。また、発がん抑制機能については、ヒト膵臓ガン細胞での発がん抑制機能については、抗腫瘍活性を示すマクロファージ阻害性サイトカイン1(MIC-1)の遺伝子発現を上昇させること 5) 、ヒト乳ガン細胞においは、乳ガンの発症に重要な役割をはたしているエストロゲン合成系の酵素であるアロマターゼの発現、活性の双方を阻害すること 6) 、血管新生を阻害すること 7) など新たな発がん抑制の機構が報告されています。

最近、レスベラトロールに生物の寿命をのばすという新たな機能が見いだされ、注目を集めています。まず酵母にレスベラトロールを与えることで、寿命が70%延びたことが報告されています 8) 。これは、生物の寿命に関係すると言われているテロメアDNAの分解を抑制する酵素Sir2の活性の上昇を通じたもので、線虫の一種やキイロショウジョウバエにおいても同様の現象が確認されています。Sir2はカロリー制限を行うことで、活性が上昇し、寿命をのばすと言われていますが、高カロリー食を与えたマウスでもレスベラトロールの投与により、過剰なカロリー摂取による有害な作用を防ぎ、寿命を延ばすことが確認されています 9) 。このことは肥満や老化に関連した疾病の治療にも応用できるものと今後の研究の発展が期待されています。

一方、種子に含まれるプロアントシアニジンの機能については、これまでにも発がん抑制や、インスリン様の作用、キサンチンオキシダーゼ活性の抑制を通じた血中尿酸レベルの減少が報告されています。最近では、高濃度のプロアントシアニジンを含むブドウ種子抽出物を中心に、解析が進められ、ラットの肝細胞においてアルコール性傷害を抑制することが報告されています 10) 。また、生体内で発生する活性酸素種の消去作用によりβ-アミロイドにより誘導される細胞死を抑制することが、ラットの培養細胞を用いた実験で明らかにされています 11) 。また骨代謝の改善に関する研究 12) や、アレルギー抑制に関する研究 13) 、肝斑の抑制に関する研究 14) も進められています。

このように多様な機能の解明が進みつつあるブドウのポリフェノールですが、栄養疫学調査の結果では、フランス人が果実類、野菜類から摂取するポリフェノールの供給源として、ブドウがリンゴ、イチゴに続く重要な位置にあることが報告されています 15) 。また、米国で市販されている1,000種類以上の食品を対象とした抗酸化活性の調査において、ブドウジュースが標準的な1回の摂取量あたりの抗酸化活性で第10位であったと報告されています 16)

また、ブドウやブドウの加工品の摂取についても、その効果の検討が進められています。認知症を伴わない高齢者の記憶力の低下について、ブドウ果汁を用いて、無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験で、改善効果の評価が行われています。コンコード種のブドウ果汁を12週間飲用したグループでは、外見や香味およびカロリーをブドウ果汁と同じように調製したプラセボを飲用したグループに比べて、言語記憶の低下が改善されたことが報告されています 17)

干しブドウには、オレアノール酸などのトリテルペン誘導体が含まれ、口腔内で虫歯や歯周病の原因となる病原菌の生育を抑制することが示されています 18) 。しかしながら、干しブドウのように糖質を多くみ、歯への付着性が高い食品は虫歯を誘発する要因となることも指摘されています。ヒトの歯垢のpH変化の調査から、干しブドウを食べることにより酸が生成することが示されています 19) 。うしょくの発生は、歯の表面に付着した食物の残渣に含まれる糖質が歯垢に存在するバクテリアに分解され、酸を生成することで、pHが5.5より低くなった場合に、歯のエナメル質から、リンやカルシウムが溶け出すことによるものです 20) 。7歳から11歳の子供20名が参加したランダム化比較交差試験の結果から、干しブドウを単独で摂取する場合、ブランフレークと一緒に摂取する場合のいずれにもいても、摂取後30分以内には歯垢のpHは6を下回らなかったことが示されています 21)

果実類は糖含量が高いもののグリセミックインデックス(GI)が低いことが知られています。低GI値食品の摂取量が多いとインスリン抵抗性リスクが低かったとする結果も報告されています 22) 。最近、ある種の脱アルコールワインの継続的な摂取が、U型糖尿病患者の血中インスリンレベルに影響を及ぼすことがヒトを対象とした介入試験で明らかにされています 23) 。夕食後にマスカディングレープの脱アルコールワイン150mlの飲用を28日間継続したグループでは、空腹時の血中インスリンレベルの低下が認められています。また空腹時の糖-インスリン比はこの期間に8.5から13.1に増加しています。この結果は、ブドウやブドウの加工品がインスリン反応の異常の改善に寄与する可能性が示されてものであり、今後の研究の展開が期待されます。

また、米国に在住する約35,000人の高齢女性を対象とした疫学調査の結果、フラバノンとアントシアニジンを含む食品の摂取と、心臓血管障害の発症率の間に相関関係が認められ、特にワインの摂取が、冠動脈性心疾患のリスクを低下させたことが示されています 24) 。ワインの種類や製造法方法により、含まれるポリフェノールの量は変動します。例えば、ブドウ果実の部位で最もポリフェノール含量が高いのは、果皮、種子、果梗枝ですが、赤ワインの製造工程で、こられの部位との接触が長くなるほどポリフェノール含量が増加し、多いものでは、白ワインの10倍にも達します 25) 。赤ワインは白ワインやブドウジュースよりも機能性の点で優れることされていますが、これはこのようなポリフェノール含量の差に基づくものです 26)

ブドウの機能性研究の進展には業界団体の一つであるカリフォルニアブドウ協会(California Table Grape commission)も大きな役割を果たしています。同協会はブドウの機能性について研究を行う研究者に資金を提供しただけではなく、機能性研究の材料として、標準化したブドウ粉末を調製して、研究者に提供しました 27) 。これまでに30件を越える研究課題に資金と研究材料の提供が行われいくつかの新しい有用な知見も生まれています。このような研究推進のスタイルは農産物の機能研究を進める上で一つのモデルとなるものでしょう。

(文責:尾崎嘉彦)


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