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疫学研究で見る野菜・果物摂取と健康の関係

2. 果物摂取と健康の関係

i. メタボリックシンドローム

メタボリックシンドローム(Metabolic syndrome: 代謝症候群)とは、それまでインスリン抵抗性症候群、シンドロームX、死の四重奏などと云われていた病態を整理統合し、心筋梗塞などの心血管系疾患や糖尿病へのリスクを高める要因の集積(クラスタリング)とされています。これらのリスク要因は食事や運動をはじめとする生活習慣と密接に関わっている生活習慣病であり、近年の疫学研究から、食行動とメタボリックシンドロームとの関わりについて数多く報告されるようになってきました。

これらの研究では、調査対象集団の各被験者から食品摂取頻度調査等により各食品の摂取量や栄養素摂取量を推定した後、集団内における食行動を主成分分析によりパターン化し、集積化されたそれぞれの食行動パターンとメタボリックシンドロームとの関連を解析しています。あるいは各食品群の摂取量別にメタボリックシンドロームとの関連を検討しています。多くの研究から、果物の摂取とメタボリックシンドロームリスクとの関連について報告されています。

Esmaillzadehらは40〜60歳の女性486名に対する食行動調査の結果から、食事パターンについて主成分分析により3つの食行動に分類し、果物、果物ジュース、淡色野菜、トマト、緑黄色野菜、全粒粉、豆類、家禽類、魚、低脂肪乳製品等の摂取が多く、高脂肪乳製品、バター、飽和脂肪酸の摂取量が少ないという健康的な食行動パターンを有するほどメタボリックシンドロームのリスクが顕著に低いことを報告しています 1) 。また肉類、精製粉、卵、バター、高脂肪乳製品、ピザ等が多く、果物、魚や低脂肪乳製品などが少ないという西洋型食行動パターンでは逆にメタボリックシンドロームのリスクが高くなることを報告しています。メタボリックシンドロームのリスク低下には特に果物の摂取量の関与が大きいとしています。またこの研究では健康的な食行動パターンでは全てのリスク要因に有意な負の関連がみられましたが、特にインスリン抵抗性、肥満、高血圧と強い負の関連が認められています。

一方、Williamsらは40〜65歳の男女802名に対して行った食行動調査から主成分分析により4つの食行動パターンに分類しています。その結果、果物、生野菜、魚、パスタ、米の摂取量が多く、フライ食品、ソーセージ、魚のフライ、ポテトの摂取量が少ない健康的な食行動パターンは、肥満、空腹時血糖値、遊離脂肪酸、中性脂肪値と負の関連を、またHDLコレステロールと有意な正の関連があったことから、メタボリックシンドロームのリスク低下にはこのような健康的な食行動が有用であると結論づけています 2) 。またこの研究においても、健康的な食行動パターでは果物摂取量の関与が最も大きいものでした。

このように果物の摂取が中高年以降におけるメタボリックシンドロームのリスクと負の関連のあることが示されていますが、最近では若い集団を対象にした調査結果も報告されました。Deshmukh-Taskarらが行った19〜39歳の米国人男女995名を対象にした横断研究の結果です 3) 。この研究から、果物、100%果汁飲料、野菜、全粒粉、豆類、低脂肪乳製品などの摂取量が多い食事パターンでは腹囲、皮下脂肪、血中インスリン値、中性脂肪値が低く、メタボリックシンドロームリスクが低いことを報告しています。

また個別の食品群の摂取量とメタボリックシンドロームとの関連を検討した報告もあります。Yooらは19〜38歳の男女1,181名に対して食行動調査を行い、メタボリックシンドロームのリスクが全く無いグループ、1〜2つのリスクを有するグループ、3つ以上のリスクを有するグループに分け、低脂肪乳製品、高脂肪乳製品、精製粉、全粒粉、果物・果物ジュース・野菜、ポテト等の各食品の摂取量を推定しました。その結果、リスクが多くなるほど摂取量が少なかったのは果物・果物ジュース・野菜、低脂肪乳製品、ダイエット飲料でした。最もメタボリックシンドロームのリスクと強い負の関連が認められたのは果物・果物ジュース・野菜であったと報告しています 4)

これらの研究から、メタボリックシンドロームのリスクには栄養摂取が大きく関わっており、特にカンキツ類をはじめとする果物の摂取はメタボリックシンドロームやその後に発症する心臓病や脳血管系疾患の発症予防に有効である可能性が高いと考えられます。

メタボリックシンドロームの最終的なイベントである心筋梗塞等の血管系疾患の発症リスクと果物摂取との関連を検討した疫学研究報告は数多く、特に興味深い報告として、フランス人と北アイルランド人で心血管系疾患を有さない50〜59歳の男性を5年間追跡調査し、果物・野菜の摂取と虚血性心疾患発症リスクとの関連を解析したDauchetらの報告があります 5) 。この研究では、野菜類の摂取は虚血性心疾患発症リスクと全く関連が無いのに、果物でも特にカンキツ類の摂取量が多いほど、有意に発症リスクを下げたと報告しています。またJoshipuraらはアメリカの医療職従事者である34〜75歳の男女126,399名を8〜14年間追跡調査した結果、ジュースを含むカンキツ摂取量の最も多いグループでの心筋梗塞発症リスクが約19%低下したと報告しています 6) 。一方、虚血性脳梗塞の発症リスクとの関連を調べた報告もあり、デンマークで行われた54,506名の男女を平均で約3年間追跡調査した結果では、カンキツ類の摂取量が最も多いグループでの虚血性脳梗塞の発症リスクが37%低下し、このような効果は野菜では認められなかったと報告しています 7)

カンキツ類をはじめとする果物には、ビタミン・ミネラル・食物繊維以外にもカロテノイドやフラボノイドが豊富に含まれており、近年、様々な生活習慣病のリスクと果物摂取との関連について多くの疫学研究結果が報告され、枚挙に遑がありません。特にメタボリックシンドロームの最終的なイベントである、心筋梗塞や脳卒中の予防にカンキツの摂取が有効であることが多くの研究で明らかになりつつあり、カンキツ類には野菜だけでは補えない健康維持・増進効果があるものと考えられます。

一方、最近日本研究グループから、果物・野菜に豊富なカロテノイドの血清濃度とメタボリックシンドロームリスクとの関連についての疫学研究の結果が報告されました 8) 。最近の研究からメタボリックシンドロームの発症に酸化ストレスが関与しているのではないかとする研究結果が報告されており 9), 10) 、また喫煙者では非喫煙者に比べて過剰な酸化ストレスに曝されていることが考えられます。実際に喫煙者では非喫煙者に比べてメタボリックシンドロームのリスクの高いことが報告されています 11), 12) 。そこでSugiuraらは、血清カロテノイド値とメタボリックシンドロームリスクとの関連を喫煙習慣別に検討しました。

その結果、果物・野菜に多いβ-カロテンの血清濃度が低いほどメタボリックシンドロームのリスクは喫煙者・非喫煙者ともに有意に高く、この関連は非喫煙者よりも喫煙者において顕著に認められました。一方、ミカンに多いβ-クリプトキサンチンの血清濃度とメタボリックシンドロームリスクとの関連は非喫煙者では認められないのに、喫煙者においてのみ認められました。これらの結果から、煙草を吸う人は吸わない人よりもより多くの果物・野菜を摂取しないとメタボリックシンドロームのリスクが高く、このことが最終的に脳卒中や心筋梗塞などの循環器系疾患、また糖尿病のリスクを高くする原因の一つになるのではないかと考えられます。

同様にカロテノイド等の抗酸化物質に着目した研究結果が最近相次いで欧米から報告されています。Coyneらはオーストラリア人を対象にした血中カロテノイドレベルとメタボリックシンドロームとの関係 13) 、Sluijsらはオランダ人を対象にカロテノイド摂取量との関係を報告しています 14) 。これらの横断解析研究から、β-カロテンやリコペン等のカロテノイドの血中濃度あるいは摂取量とメタボリックシンドロームリスクとに有意な負の関連を認めています。

また最近では、大規模なコホート研究の結果も報告されました。Czernichowらは5220名のフランス人を7.5年間追跡したところ、調査開始時に血中ビタミンCやβ-カロテン濃度が高い人では、メタボリックシンドロームのリスクがそれぞれ47%、66%低かったと報告しています 15) 。同時に彼らはビタミンC、E、β-カロテン、亜鉛及びセレンを配合した抗酸化剤の介入試験を行いましたが、メタボリックシンドロームのリスク低減には効果がなかったと報告しています。この結果から、抗酸化物質をサプリメントとして摂取するのではなく、抗酸化物質の多い果物や野菜等を食事から摂取することが重要だろうと指摘しています。

(文責 杉浦 実)


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