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疫学研究で見る野菜・果物摂取と健康の関係

2. 果物摂取と健康の関係

h. 眼病

 眼の病気には、白内障、黄斑変性症、緑内障、糖尿病網膜症などがあります。これらの病気は、視力の減退や最終的には失明にもつながります。

 白内障は、水晶体という眼のレンズに含まれているタンパク質の透明度が下がり濁った状態となるため、視野がかすんだりぼやけたりします。原因ははっきりしませんが、中年以降での発症が多く、加齢に伴い罹病者も増加します。加齢に伴い避けられない症状ともいえます。水晶体の濁りは活性酸素による酸化が原因の一つと考えられています。喫煙は白内障発症の大きなリスクとなる事、喫煙をやめればリスクは非喫煙者とは同じではないものの改善されることが知られています 1), 2), 3) 。喫煙は体内のビタミンCやカロテノイドなどの抗酸化成分を減少させることが知られていますから、カロテノイド、ビタミンC、ビタミンEなどの抗酸化成分を豊富に含む果物を食べることが予防に有効ではないかと考えられます。例えば、アメリカでの、女性看護師約5万人を対象としたいくつかの疫学研究があります。食品からのカロテノイドあるいはビタミンC摂取量が多い人、サプリメントでビタミンCを長期摂取している人はそうでない人に比べて、白内障の発症リスクが低いことが分かりました 4), 5), 6) 。また、男性医療専門職を対象とした研究では、カロテノイド(ルテイン、ゼアキサンチン)の摂取が白内障のリスクを下げることが示されています 7)

また、カナダで行われた疫学調査では、白内障に罹患したグループは、罹患していないグループと比べて、ビタミンCとビタミンEの摂取量が少ないと報告されました 8) 。ビタミンサプリメント摂取者では、どの成分が有効かは不明であるが、白内障のリスクが下がったという疫学調査もあります 9) 。ルテインをサプリメントとして2年間摂取した臨床試験では、白内障の視力低下を改善する効果がみられたとしています。この試験ではα-トコフェロールも調べていますが、効果がみられなかったようです 10)

一方で、効果が見られなかったとする疫学研究の結果もいくつか報告されています。例えば、β-カロテンサプリメントの加齢に伴う白内障の予防に関して、米国で12年間行われた調査では効果は認められませんでした 11) 。男性喫煙者の白内障発症のリスクは、α-トコフェロールとβ-カロテンを摂取しても下がらないとしたフィンランドでの報告 12) などです。私たちが摂取し、血中から検出される主要なカロテノイドは6種類あります。予防には特定のカロテノイドのみを摂取するより、カロテノイドを区別しないほうが良さそうです。

 一方、多様な抗酸化物質を含む果物の摂取と、白内障の関係を調べた疫学調査がいくつか報告されています。イタリアで行われた疫学調査では、果物の摂取が白内障の予防に有効であると報告されています 13) 。アメリカでも果物や全粒粉を多く摂取する人では同様に罹患率が低いという調査結果が得られています 14) 。また、アメリカ女性35,724人を対象とした10年間の追跡研究では2,067人の白内障が確認され、1,315人が白内障の摘出手術を受けていますが、果物や野菜を多く摂取する人では、白内障になるリスクが10〜15%減少すると報告されています 15)。インドで行われた白内障に関する症例対照研究でも、対照者より患者の方が肉類や油で揚げたスナックの摂取量が多い一方、緑色葉菜、果物、茶の摂取量が少ないという報告があります 16) 。レンズの酸化ストレスは果実摂取量と負の関連があり、これは食品中の抗酸化成分であるβ-カロテン、アスコルビン酸、葉酸、鉄、フィチン酸類、ポリフェノールの欠乏がレンズの酸化ストレスと関連するとしています。

 黄斑変性症は、視力に取って重要な網膜の中心にある黄斑という部分が萎縮、裏側に新生血管が発生する疾病です。ものがぼやけ,細かい部分が見えにくくなり,視力が低下します。原因は明らかではありませんが加齢性黄斑変成(AMD)と言うように加齢と関係する他、遺伝的要因との関連、また白内障と同様に喫煙との関連が多くの研究で指摘されています 17), 18)

 白内障と同じように抗酸化成分摂取との関連を見た例として、インドで行われた無作為割付臨床試験では、ビタミンC、ビタミンE、β-カロテンといった抗酸化ビタミン摂取は白内障の進行に関与しないことが示されています 19) 。また、ヘルスクレームとされるルテインやゼアキサンチンの効果については、信頼の置けるデータがないという報告もありますが 20) 、米国で行われた疫学調査によると、カロテノイドを日常的に摂取しているグループは、ほとんど摂取していないグループに比べて、黄斑変性症の発症リスクが43%低いという報告もあります 21) 。リトアニアでは冬季には野菜の摂取量が極めて少なくなります。このことが黄斑変性症の増加につながるのではないかという疫学研究例があり、年間を通して果物・野菜の摂取が重要と言えるでしょう 22) 。また、一日に果物を3サービング(ミカンなら3個位)以上食べる人は、1.5サービング以下の人に較べ、黄斑変性症になるリスクが低いという米国での疫学調査の結果が出ています。この調査では、黄斑変性症と野菜、抗酸化ビタミン、カロテノイドの摂取との間には強い関係は認められていません 23)

 以上のように、黄斑変性症予防について、抗酸化成分そのものの摂取での有効性を示す一定の結論は出ていません。発症した場合、ビタミンC、ビタミンE、β-カロテン、亜鉛を組み合わせたサプリメントの摂取の有効性が示唆される 24) ものの、過剰な摂取は、健康に対して有害であることが指摘されています 25) 。上記の抗酸化成分は、果物や野菜に含まれます。また、横断研究や症例対照研究によればn-3脂肪酸の摂取と黄斑変性症のリスク低減との間に関連が認められますが、コホート研究も少なく介入研究の報告例もないので確定的な事は言えない様です 26)

 緑内障は、視神経の変化で視力が低下し失明にもつながります。視神経の変化がなぜ起こるかは明らかではありませんが、眼内圧が高いことと関連性があり、その圧を下げる事で進行を抑える事が出来ます。緑内障のリスクは脂質の摂取により高まることが示唆され 27) 、また抗酸化ビタミンやカロテノイドの摂取と緑内障のリスク低減との関連性は弱いという報告があります 28) 。果物と野菜の摂取とリスクとの関連を調査した文献は少ないのですが、米国での骨粗鬆症による骨折に関する調査集団を対象に調べた結果では、果物(モモ)と野菜(ケール、カンラン、ニンジン)の摂取は、そのリスクを下げるとしていますがさらに研究が必要でしょう 29)

 抗酸化ビタミン類やカロテノイドなど抗酸化物質の白内障、黄斑変成症、緑内障に対する有効性は一定の評価にいたっていません。このようなことから、眼病の予防をビタミンC、カロテノイド、ポリフェノールなどの抗酸化サプリメントに頼るよりも、多様な抗酸化物質を含み、しかも他の病気の予防にもつながる果物を食べて予防する事は合理的と言えるでしょう。

(文責 小川 一紀)


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