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疫学研究で見る野菜・果物摂取と健康の関係

2. 果物摂取と健康の関係

b. 循環器系疾患

代表的な循環器系疾患として、心臓病と脳卒中があります。心臓病とは、心臓に起きる疾患の総称で、日本人の死亡原因の第2位(平成19年度)で、17 万人が亡くなっており、がんと同じように増加傾向にあります。心筋梗塞と狭心症がその代表的なものです。入院あるいは通院患者は18万人に達しています。

心筋梗塞は、アテローム性動脈硬化がもとで生じた血栓等による梗塞(つまり)で、心筋への血液供給が急激に減少したり途絶えたりして心筋が壊死を起こした場合におきます。狭心症は、アテローム性動脈硬化により血管が狭まり血流量減少した状態です。

脳卒中は、脳血管の突然の障害により突然意識を失い、手足等に麻痺を起こす病気です。日本人の死亡原因の第3位(平成19年度)で13万人近い人が亡くなっており、入院あるいは通院患者も37万人に達しています。日本人の65歳以上の寝たきり等で介護を要する患者は32万人ですが、その7〜8割は脳卒中によるものです。脳卒中には、虚血性と出血性の2種類があります。虚血性の脳卒中が脳梗塞で、脳血管で発生した血栓がつまる脳血栓と、他の場所で発生した血栓や塞栓(脂肪等)が脳血管を塞ぐ脳塞栓があります。血液が脳組織に循環しなくなり細胞壊死することから脳障害を起こします。出血性の脳卒中は、動脈硬化で硬く脆くなった脳血管が内出血を起こし脳組織が障害を受ける脳出血と、くも膜下の動脈硬化や動脈瘤(発生の要因は不明)が原因で破裂するくも膜下出血に分けられます。

リンゴ心臓病と脳卒中の多くはアテローム性動脈硬化で、その要因として、高脂血(症)、高血圧(症)、高血糖、糖尿病、肥満、喫煙、運動不足等があげられます 1), 2) 。心臓病は喫煙が、脳卒中は高血圧(症)が最大の危険因子とされています。上述のアテローム性動脈硬化の要因は、食生活や生活習慣で予防や改善ができる場合があります。食生活の基本は、食事バランスガイド等を参考に、炭水化物、タンパク質、脂質をバランス良く、適切なエネルギー量を摂ること、適切な運動を行うことにあります。果物・野菜は、炭水化物、食物繊維やビタミン、ミネラルの重要な摂取源であると同時に、カロテノイドやポリフェノール等のフィトケミカル(植物に含まれる化学成分)の摂取源でもあります。果物・野菜の摂取と心臓病や脳卒中の予防に関しては、数多くの疫学研究においてリスク低下を示すことが示されています。

心臓病の予防に関する疫学研究に関して、Nessらは、10の地域相関研究、3つの症例対照研究、16のコホート研究の集団を示し、コホート研究では果物・野菜の摂取と冠動脈性心疾患予防に関する解析については4例しかなく、そのうち3例で負の相関が見られるのみなので、果物・野菜の摂取による冠動脈性心疾患の予防は弱いものであろうという解析もあります 3)

しかし、Liuらによる米国の女性看護職者を対象とした、果物・野菜の摂取と冠動脈性心疾患の関係を解析で、果物・野菜の摂取量の最低(中央値2.6サービング)と最高(中央値10.2サービング)に対する相対危険度は、1.0と0.68となり、強い予防効果があることが示されています 4)

Bazzanoらは米国の第1次国民栄養調査の集団を対象に、果物・野菜摂取と冠動脈性心疾患との関係を解析し 5) 、果物・野菜の摂取が1回/日と3回/日以上の比較で、虚血性心疾患は24%、冠動脈性心疾患による死亡率は27%減少しているとしています。

Joshipuraらは、米国の2つのコホート研究(女性看護職者と医療専門職者の集団)について解析を加えており、果物・野菜の摂取量が高いグループ(10サービング)は低いグループ(3サービング)との比較で相対危険度は0.8となり、果物・野菜の摂取と冠状動脈性心疾患との間には負の相関が認められるとしています 6) 。摂取量が1サービング増加すると相対危険度は4%ずつ減少しており、特に緑黄色野菜、ビタミンCを豊富に含む果物・野菜の摂取が予防効果に大きく寄与しているとしています。

野菜や果物Dauchetらはフランスと北アイルランドの異なる集団での解析を行い、果物・野菜、果物、野菜、カンキツ、その他の果物に分けて、それらの摂取頻度と急性冠状動脈疾患の関係を調べています 7) 。この中で、北アイルランドでは、カンキツでもその他の果物でもリスクを下げるが、フランスではカンキツのみリスクを下げるとしていますが、なぜ、地域により異なる結果が出たのかは明らかにはなっていません。なお、野菜の摂取のみでは、どちらの集団においても、冠状動脈疾患のリスクを下げる確証は得られませんでした。Dauchetらは9つのコホート研究についてメタアナリシスを行っています 8) 。冠動脈性心疾患のリスクは、1日の摂取が1皿分(106g)増加すると、果物・野菜を合わせた場合、相対危険度は4%ずつ減少し、果物だけの場合をみると7%ずつ減少するとしています。

Nessの報告の時点では効果は弱いという結論でしたが、その後の解析で、果物の摂取は心血管疾患のリスクを下げとして、ほぼ確実と言えそうです。ところで前述の研究の対象は、ほとんどが海外ですが、国や地域により食生活に違いがあります。日本人の食生活でもこのようなことが言えるのかという点ですが、日本での疫学研究の結果が、最近相次いで公表されています。

Shimazuらは宮城県大崎保健所管内に居住する国民健康保険加入者約5万人を対象に、食事の摂取パターンと心血管疾患の関係に関するコホート研究を行っています 9) 。食物摂取頻度調査をもとに、食習慣を分類すると、大豆食品、魚、海藻、野菜、果物、緑茶の摂取を特徴とするパターン(日本食型)、肉や乳製品などの動物性食品、コーヒー、アルコール摂取を特徴とするパターン(肉食型)、乳製品、野菜、果物の摂取と低アルコール摂取を特徴とするパターンになりました。日本食型は、冠状動脈疾患や脳卒中を含む心血管疾患の死亡リスクが低く、肉食型は高いという結果になりました。また、高血圧は冠状動脈疾患や脳卒中を含む心血管疾患の原因ですが、食塩摂取量が多い日本では、高血圧症の罹患率は高いが、心血管疾患の死亡率は低いとされ、本研究でもこのことが確認されています。この相反する現象は、日本食型を構成する要素に何らかの予防要因があるのではとしていますが、明らかとはなっていません。

Takechiらは、厚生労働省研究班の多目的コホート研究において、全国9ヶ所の保健所の管轄の約8万人を対象とし、1995年から追跡研究をした結果から、果物・野菜の摂取と心血管疾患と全がんの死亡率についての関係を発表しています 10) 。食物摂取頻度調査をもとに、食品と心血管疾患のリスクとの関係を調べた結果、果物摂取量が多いほど心血管疾患のリスクが低く、果物摂取量が最も多いグループ(平均280g)は、最も低いグループ(平均35g)に較べリスクは19%低くなっていました。野菜にはこのような関係が認められていません。喫煙者と非喫煙者に分けて比較すると、喫煙者ではリスク低減の傾向はあるものの統計的には有意ではなくなり、喫煙習慣が、果物・野菜の効果を減弱させる可能性を示しています。

Nakamuraらは、岐阜県高山市でのコホート研究を行い 11) 、男女に分けて解析した結果を示しています。野菜による心血管疾患の死亡リスクの低減作用が女性では認められましたが、果物については明確ではないとしています。男性では、果物あるいは野菜の摂取と心血管疾患の死亡リスクとの間に関連は見られないとしています。男女で異なる結論となったのは、男性の喫煙率が女性に較べ高いことや女性ホルモンとの関係が原因であろうとしています。

Hozawaらは、約4,500人の18〜30歳の男女について、血中カロテノイド濃度および喫煙習慣と糖尿病の発生の関係を検討しています 12) 。非喫煙者のカロテノイド濃度は78μg/dlであるのに対して、喫煙者の血中濃度は68.3μg/dlと低く、喫煙習慣は血中の抗酸化成分であるカロテノイドを消耗することが推測されますが、活性酸素は動脈硬化の進行に関係することから、果物・野菜による心血管疾患予防効果は抗酸化成分が要因の一つと考えられます。Nakamura の報告では、喫煙習慣が心血管疾患に対する予防効果を減弱させると推測されていますが、原因はこのあたりにあると言えそうです。

脳卒中の予防について、多くの疫学的研究で果物・野菜の摂取が脳卒中の危険性を減らすことが示されています。Dauchetらは、脳卒中と果物・野菜の摂取に関する7つのコホート研究(米国、5研究;ヨーロッパ、1研究;日本、1研究)についてのメタアナリシスの結果を報告し 13) 、脳卒中のリスクは、1日の摂取が1皿(106g)増加すると、果物のみの場合、相対危険度は11%減少し、果物と野菜については5%減少が見られるとしています。果物または果物・野菜を多く食べるほど脳卒中のリスクが低いということが示されています。野菜については、相対危険度が3%減少したが統計的には意味のある差ではありませんでした。

Heらも8つのコホート研究(Dauchetらの解析した研究に加え、フィンランド、1研究;オランダ、1研究を追加)のメタアナリシスから、脳卒中のリスクと果物・野菜の摂取頻度との関係を評価しており 14) 、果物と野菜を合わせた摂取量(1サービング:果物80g、野菜77g)での検討を行っています。3サービング未満/日のグループと比較した場合、脳卒中の相対危険度は、3〜5サービング/日のグループでは0.89、5サービング/日のグループでは0.74でした。虚血性と出血性の脳卒中のどちらのリスクも下げるとしています。

かんきつ類日本人を対象とした研究では、先のShimizuら、Nakamuraらの報告の他に、Sauvagetらの広島と長崎の39,337名を対象とした研究もあり 15) 、緑黄色野菜と果物の摂取は、脳卒中、脳内出血、脳梗塞による死亡のリスク低下と相関があり、予防効果を示しています。

Johnsenらが、デンマークの男女について、果物と野菜の摂取量と虚血性脳卒中のリスクの関係を調べたコホート研究では、果物や野菜摂取量と虚血性脳卒中のリスクには逆相関があり、例えば、果物・野菜ではリスク比が0.72、果物のみだと0.60と予防効果を示す結果を示しています。果物・野菜の種類により違いがあるかどうかを、9つのグループ(このうち果物に関してはカンキツ類とその他の果物の2グループ)に分けて検討した結果では、カンキツ類は統計的に意味のある差を認めていますが、他のグループは予防的な傾向を示すものの統計的に意味のある差ではなかったとしています 16)

果物が心臓病や脳卒中の予防に有効であることは、多くの疫学研究で示されていますが、果物によって効果の違いがあるのかということについて、明確なデータはありません。循環器系疾患の予防に関して、特定の果物が特に良いというのではなく、季節の果物を適切な量食べることが望ましいと言えるでしょう。また、適度な運動をすることも重要です。

さて、心臓病や脳卒中といった循環器系疾患の入り口は、動脈硬化と高血圧です。動脈硬化にはいくつかの種類がありますが、最も多いのがアテローム動脈硬化です。動脈硬化は血管が傷つくことから始まります。傷害を起こす要因は、高血圧と関連するアンジオテンシンおよび酸化ストレス、高脂血症と関連する酸化LDL-コレステロール、脂肪細胞から分泌されるサイトカイン、糖尿病と関連する糖化タンパクと酸化ストレス、喫煙による酸化ストレスなどがあります。

このような傷害が起きると、生体防御に関係する白血球の単球が血管壁の間に入り込み、マクロファージに変化し、酸化LDL-コレステロールや他の脂肪性物質を取り込み、次第に大きな塊(アテローム)となります。これが血管内を狭くしたり、破裂によって血栓を形成したりすることで、血液循環の障害につながり、脳卒中や心臓病を起こします。動脈硬化の発症や進行は、LDLの酸化から始まります。果物や野菜に含まれるカロテノイドやポリフェノールなどは、その抗酸化作用により活性酸素を除去するため、LDLの酸化を防ぎ、動脈硬化の予防に効果があると考えられています。

LDL酸化予防の可能性についてはいくつかの報告があります。例えば、アメリカミネソタ州で行われた調査では、血清中β-クリプトキサンチンとルテイン・ゼアキサンチン濃度のレベルが高い人ではLDLの酸化が遅く、また動脈硬化の程度が低いと報告されています 17) 。オレンジ他6種類の果物の果汁を飲用すると,直後に血液の抗酸化活性が高まり90分程度持続するという報告があります 18)

かんきつ類

また、冠状動脈性心疾患の患者に2週間ブドウジュースを飲用してもらったところ、飲用前より血液中のLDLの酸化が遅延されることが示されています 19) 。ブドウの皮や赤ワインなどに見出されるポリフェノールの一種であるレスベラトロールは、LDLの酸化を強く抑制するとされています 20) 。脂質の代謝に関してもいくつかの研究結果があります。グレープフルーツなどの苦味成分として知られるナリンジンには、血液中のコレステロール濃度を減少させる効果が認められています 21) 。ミカン産地の三ヶ日町で行った疫学調査の解析では、ウンシュウミカンの摂取はシーズンだけではなく年間を通じて脂質代謝に良い影響をおよぼすのではないかと指摘しています 22) 。冠状動脈疾患の患者においてグレープフルーツのスイーティを加えた食事を取ると脂質代謝が改善されることが報告されています 23)

さて、抗酸化成分の摂取と疾病のリスクに関しては、多くの疫学研究が行われているのですが 24), 25) 、残念ながらカロテノイドの摂取と予防効果に関しては必ずしも肯定的な結果だけではなく、β-カロテンの投与による介入試験では冠動脈疾患の予防効果を示す結果は得られず、逆に喫煙者ではリスクを上げたとする報告もあります。また、ポリフェノールの場合も、予防効果に関して相反する結果が得られています。カロテノイド摂取と動脈硬化の指標である脈波速度に関する疫学研究によれば、β-カロテンとβ-クリプトキサンチンには予防的な結果を見いだせたが、それら以外のカロテノイドでは認められませんでした 26) 。カロテノイドの種類によって、また対象とする疾病や症状により異なる結論が出るのかもしれません。

ビタミンCに関してはどうかと言いますと、Myintらが約2万人の血清中のビタミンCを測定し、脳卒中の発生との関連を調べています。ビタミンC濃度の最も高いグループは最も低いグループに較べ、脳卒中のリスクが42%低いという解析結果を示しています 27) 。しかし、ビタミンCの摂取が脳卒中を予防することを直接示している訳ではなく、脳卒中のリスクのバイオマーカーとなることを指摘しています。ビタミンCの主要摂取源は、果物・野菜であるが、ビタミンCを添加した食品、加工調理などでの損失から、必ずしも果物・野菜の摂取量を反映するとはいえないものの果物摂取との関連が示されたと言えるでしょう。

高血圧は、心血管系疾患の大きなリスク要因で、血圧降圧剤が心血管系疾患の予防に有効であることが示されています 28) 。血圧調節系の異常によって起こる病的な場合は薬によって治さなければなりませが、高血圧の予防や軽症高血圧の食事療法の一環として果物・野菜を取り入れることは効果的です。

ナトリウムの過剰な摂取が、血圧を上昇させることは良く知られています。そして、ナトリウム摂取が脳卒中や心血管疾患のリスクを高めることが多くの疫学調査で知られています 29) 。日本の疫学調査(JACC研究) 30) でも、ナトリウム摂取量が増加するほど脳卒中のリスクが増加することが分かっています。ナトリウム摂取と虚血性心疾患のリスクとの間には関連は認められていません。

一方、カリウムについて調べると、摂取量多いほど虚血性心疾患の死亡リスクの低下が認められています。リスク低下は女性で認められ男性でも認められるものの統計的には有意ではありませんでした。カリウムには血圧を下げる作用があります。末梢血管の拡張による血管抵抗の減少、水分とナトリウムの排泄、血圧を上げる作用を持つレニンとアンジオテンシンの分泌抑制、ナトリウム/カリウムポンプの活性化、副腎の緊張を抑えるなどの複合的な作用とされています。高カリウム含有食品の摂取は高血圧を予防することが疫学研究で示されています 31) 。果物の多くは、程度の差はありますが、ナトリウムに比べカリウムを豊富に含んでいます。米国で実施された、「高血圧予防のための食事的アプローチ」(英文の頭文字を取ってDASH)で検討した食事が、高血圧の原因となる脂肪を減らし果物・野菜を豊富に食べるという習慣です。加齢に伴い血圧が上昇しますが、果物・野菜の摂取多いほどがその上昇が低いという関係が知られています 32) 。臨床試験でも、果物・野菜の摂取を増やすと血圧の低下が起きることが示されており、脂肪の摂取を控えるとより効果的に血圧が下がっています 33)

脳梗塞や心筋梗塞に対して、果物が予防的に働くことは、上述のように多くの疫学研究で示されています。しかも、たくさん食べる程リスクが下がることも示されています。このように、果物・野菜の摂取、特に果物の摂取と予防との関係が示されています。果物・野菜の摂取による血圧のわずかな低下が予防的に作用していることが理由の一つと思われますが、果物の摂取が、脳梗塞や心筋梗塞予防につながる理由としては、血圧だけではなく動脈硬化に対して抑制的に働くことなど複合的な要因があると考えてよさそうです。果物は、そのほとんどを生で食べますが、野菜は調理等で塩分を加える事が多くナトリウムの摂取にもつながります。果物を食べるメリットは大きいと考えられます。果物と野菜を上手に組み合わせてバランスの取れた食生活をしましょう。

(文責:小川一紀)


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