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疫学研究で見る野菜・果物摂取と健康の関係

2. 果物摂取と健康の関係

a. がん

「食物・栄養とがん予防に関するこの10年の変化」

わが国において、がんの死亡者数および罹患者数はともに増加しています。男性ではおおよそ4人に1人、女性では6人に1人ががんで亡くなっています。がん発生の要因の一つが環境要因の蓄積にあることから、年齢が高まるにつれてがんになる人が増加します。したがって、高齢者の割合が高いとがんで死亡する人の割合は高まります。同じ年齢構成に調整して比較すると、がんによる死亡率は男女ともに減少傾向にあります。一方罹患率をみると、男性では横ばい傾向、女性では増加傾向にあります。死亡率の減少は早期発見や治療法の進歩で生存率が高まったためです。発がんには遺伝的要因と環境的要因があります.我々がすぐに対応できるのが、環境的要因の改善です。発がんの主な環境的要因として、喫煙、食事、感染が考えられます。したがって、がん予防の取り組みで重要なのは、まず禁煙であり、加えて食事に考慮をはらうことです。

食生活とがん予防については、多くの人が関心を持っています。世界がん研究基金、米国がん研究所は、1997年に「食物・栄養とがん予防:国際的な展望」(Food, Nutrition and the Prevention of Cancer:a Global Perspective)1)を発表し、研究事例が不足している臓器を除き、多くの臓器で果物・野菜の摂取によるがん予防効果は確実であろうという見解を示しました。「食物・栄養とがん予防:国際的な展望」でとりまとめられた研究の多くが症例対照研究(case-control study:がん患者群と同様な条件にある健常者群間での比較)だったのですが、その後、症例対照研究より信頼性が高いとされている大規模コホート研究(研究開始時にベースラインとして生活習慣、健康事象などを事前に調査したグループ内でのがん発症者群と健常者群での比較)の研究成果が相次いで報告されるようになりました。

これらの大規模コホート研究の結果では、野菜・果実の摂取とがん予防との間に統計的に有意な関係が認められる例が少ないことが分かってきました。世界各国から報告された果物とがん予防に関する多数の疫学研究結果を解析し、症例対照研究とコホート研究の違いが検討されています2)。食物・栄養とがん予防に関するコホート研究の結果を取り入れた専門家の見解は、WHO(世界保健機構)とFAO(国連食糧農業機関)から、食物・栄養と慢性疾患予防に関するエキスパート・コンサルテーションの報告3)、IARC がん予防の手引きに関する検討評価委員会4)から、食生活によるがんなどの生活習慣病の予防に関する報告書としてまとめられています。これらの内容は邦文として総説5)で紹介されています。さらに、2007年に世界がん研究基金から「食物、栄養とがん予防:国際的な展望­−第2版」6)が発表されました。これらの報告では、野菜と果物によるがん予防効果について、1997年版の「食物・栄養とがん予防:国際的な展望」で「確実:convincing」とされた食道、胃、大腸、肺でのがん予防に関する評価は、「可能性大:probable」になっており、他の臓器についても評価は控えめになっています。

わが国におけるがんの予防に関する疫学調査について紹介します。文部科学省科学研究費による大規模コホート研究(JACC)と、厚生労働省研究班による多目的コホート研究(JPHC)が実施されており、食生活とがん予防に関する研究結果が相次いで発表されています。全がんで見た場合、リスク低下との関連は認められません(JPHC)7)。胃がんについては、死亡率と果物摂取に関連は見られない(JACC)8)、少量の摂取でわずかにリスクを軽減するが、多量に摂取しても効果はそれほど高まらない(JPHC)9)としています。肺がんについては、男性の喫煙者に限ってリスクを軽減する(JACC:詳細を後述)10),11)もしくはリスク軽減効果はない(JPHC)12)、大腸がんについては、リスクを軽減しない(JPHC)13)、尿管および膀胱がんなどについては、リスクを軽減(JACC)14)するという報告がなされています。

このように日本人を対象としたコホート研究の結果も海外のそれと同様で、果物の発がんリスク軽減効果は、広範な発症部位に対してではなく、一部の臓器に限定的です。また、果物・野菜による発がんリスク軽減効果はあるものの、そのための必要量は比較的少量で、多くの人はその程度は普通摂取しており、コホート研究では大きな効果としては現れてこないという指摘もあります8)

以上のように、果物のがん予防因子としての効果は限定的ですが、少なくとも現時点では、発がん予防に結びつく食品は果物と野菜しか見いだされていません。果物は、がんの危険因子ではないこと、一方で循環器系疾患のリスクを下げることが多くの疫学研究で示されています。また、いろいろな栄養成分や食物繊維などを効率的に摂ることができます。したがって、果物を適切な量食べることは道理のあることです。がんの予防には、「確実」な危険因子とされている喫煙(喫煙は、肺がんのリスクが非喫煙者の4.5倍になる)をさけ飲酒を控えること15)、肥満を解消し、適度な運動を行い、食物・栄養に注意をはらうことが肝要です6)。がんの予防には、地道な習慣の積み重ねが重要なようです。

「果物の肺発がんリスク軽減効果」

果物の肺がんの予防に対しての評価は「可能性あり」という判定ですが、少し詳しく述べてみます。まず、ヨーロッパ10カ国47万人にのぼる大規模コホート研究(EPIC研究)では、10年間に1,074人の肺がん患者が見られましたが、果物・野菜摂取によるリスク軽減効果が認められています(相対危険率0.60、p値0.0099)16)。さらに、このコホートのその後の調査では野菜には認められないが、果物にはリスク軽減効果が認められることが示されています。一方、ヨーロッパ各国の8カ所のコホート研究を総合して解析した例(総計43万人、発症者3,206人)でも、軽減効果が認められています(相対危険率0.77、p値0.001)17)。この場合にも野菜にはリスク軽減効果は認められていません。

日本では、がん全体の中で、肺がんによる死亡率は男性では1位、女性では3位です。上述のJACC 研究は4万人弱でヨーロッパの10分の1の規模の集団ですが、血中カロテノイドを測定しており、リコペン、α-カロテン、β-カロテン、β-クリプトキサンチン、カンタキサンチンの高濃度群においてリスク軽減効果を示しています(オッズ比:0.28〜0.46)18)。また、男性でのみにリスク軽減効果が観察されていますが、性差については女性対象者の人数を増やした調査が必要としています。β-クリプトキサンチンの肺がんリスク軽減効果について、いくつかの報告があります19),20),21)。コホート研究をプールした解析で、カロテノイドのうちβ-クリプトキサンチンのみに肺がん予防効果があるとする報告もあります22)。カロテノイド摂取量や血中濃度と発がんのリスク低減に関する観察研究が多数なされています。観察研究を、症例対照研究とより信頼性が高いとされるコホート研究やコホート内症例対象研究の結果を、カロテノイド別に比較解析した報告があります23)

全報告に対する有意なリスク低減との関連を示唆する研究報告の割合をみると、症例対照に比べコホート研究やコホート内症例対象研究では低く、全がんを対象にした場合、β-カロテンは各研究手法に対してそれぞれ18/29から2/11および3/17、β-クリプトキサンチンは9/20から1/7および3/17に減少しています。肺がんを対象にした場合、β-クリプトキサンチンは1/1から1/1および2/2ですから、全報告数は少ないのですがいずれの研究手法でもリスク低減効果が示されています。β-クリプトキサンチンは肺がんに対して有望な発がん予防物質になりそうですが、β-クリプトキサンチンの肺がん細胞(A549、BEAS-2B)の増殖抑制作用を調べ、細胞分裂前のDNA合成期であるS期が減少、停止期のG1/G0期が増加していること、発がん抑制効力があるとされるレチノイドの受容体の活性を高めることが増殖抑制の機序の一つと考えています24)。ただ、カロテノイドの中でβ-クリプトキサンチンに特異な現象であるかどうかは明らかにされていません。予防効果はβ-クリプトキサンチンそのものによる可能性がある一方、このカロテノイドの主たる供給源がカンキツである25),26)こと、果物のうちカンキツに肺がんリスク軽減効果を認めたとする報告もあるので27)、β-クリプトキサンチンとカンキツ機能性成分の複合的な効果によって肺発がんが抑制されるという推察もできます。リウマチに関するコホート研究で、同じように抗酸化成分のうちβ-クリプトキサンチンのみにリウマチ罹病リスク軽減効果が認められますが、β-クリプトキサンチンと同時に摂取しているカンキツ機能性成分の効果も考える必要があるとしています28)

ところで、β-カロテンサプリメントの摂取と肺がん予防に関する無作為割付比較試験では、非喫煙者では関連性が弱く有意ではないこと、喫煙者ではリスクを高めてしまうという結果が出ています29)。カロテノイドと肺がんの発症に関する31の疫学研究の結果を解析した報告が有ります30)。β-カロテンの摂取と肺がん発症の関連を調べた無作為割付比較試験は6件ありますが、総合すると摂取とリスク低減には関連を認める事ができず、ハイリスクグループである喫煙者やアスベストを吸引していた人は明らかにリスクが増加すると結論しています。

また、食事由来の総カロテノイド摂取量、β-カロテン摂取量と肺がん予防との関連を報告している25のコホート研究を総括して、総カロテノイドには逆の相関が見られるが統計的には有意ではないとしています。コホート研究で見られる効果は、カロテノイドの摂取量が多く血中濃度が高いということと果物・野菜を良く食べ健康的なライフスタイルとの関連性、あるいは喫煙者は果物・野菜を取らない人が多いといったことが関係しているのではないかと推論しています。

以上紹介したように、果物など食品の発がんリスク軽減に関する研究に関する研究は、カロテノイドの種類によっても異なりそうですし、カロテノイド摂取に関連する他の要因が関連する可能性もありそうです。果実を摂取することによって喫煙者の発がんをどれだけ減らすことができるかについて、10万人あたり450人程度が肺がんになるコホートで、果実などの植物性食品を十分に摂取していれば70〜80人が肺がんにならずにすむのではないかという試算もあります31)。なお、肺がんを発症してしまった人に対しても果物や野菜摂取は意義があり、予後が改善されたという報告もあります32)。喫煙が誘発する肺がんは、活性酸素によってDNAが損傷をうけることが発がんのきっかけになるので、DNAの損傷を修復する酵素はがん予防に重要な役割を果たしています。この酵素には多型(酵素タンパクの一部のアミノ酸の種類が異なるタイプ)があり、この酵素中の特定の場所がある種のアミノ酸に置き換わった人だけに果実による発がんリスク軽減作用がみられるとしています33)。果物・野菜のがん予防効果など疫学研究は集団を対象としますから、人によっては予防効果が違う可能性があります。だからこそ、がん予防には積極的に果物・野菜を食べる健康的なライフスタイルが重要であると考えられます。

なお、食品やサプリメントとがん予防に関しては、一般向けの書物が出ています34),35)

(文責 小川一紀,矢野昌充原文・小川一紀加筆修正)


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