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国産やさいの情報提供の推進

産地が保有する料理等の情報収集の調査報告
 T.ピーマンの販促活動(高知県JAとさし)

調査および報告 農業ジャーナリスト 青山浩子

  1. 活動の背景
  2. 活動の概要
  3. 量販店における販促活動の内容
  4. 販促の成果
  5. まとめにかえて

1. 活動の背景

安心安全の体制を構築


天敵防除を導入したピーマン
(山本康弘さんのハウス)

裏面に農家、出荷日が
数字で印字されている

JAとさしはピーマンの産地で出荷量は約2500トン。高知県全体の出荷量の1/3を占める。現在、同JAのピーマン部会に所属する生産者は37名で、栽培面積は15.6ヘクタール。一農家あたりの栽培面積は約47アールで、県平均(約25アール)と比べて大きく、反収も約15tと、県平均(約12トン)より高い。出荷先は関東がもっとも多く、全体の28%、継いで関西(22%)、中京(15%)などとなっている。

管内では、2000年までは病虫害の防除といえば化学農薬の散布が当たり前だったという。だが、害虫の薬剤に対する抵抗性が強まり、化学農薬の効果が大きく低下するといった事態に見舞われた。またこの頃、無登録農薬の問題も発覚したこともあり、化学農薬に頼らない栽培技術を高知県全体で進めていくことになった。同JA管内でも02年に数軒の農家が、天敵昆虫を使った防除技術を導入するようになり、次第に導入する農家が増えていった。03年からは物理的防除法である“紫外線カットフィルム”の利用と天敵防除を組み合わせた技術が普及していった。高知県内にあるJAの県段階組織「高知県園芸農業協同組合連合会(園芸連)」では、天敵を活用するなどして農薬の使用量を減らした農産物を「エコシステム栽培品」として確認および認証しており、ピーマン部会全員がエコシステム栽培の認証を取得した。

一方、06年にピーマン選果機を更新したことをきっかけに「誰が、いつ、どれだけ出荷したか」を暗号化された数字で示す小袋への印字システムを導入した。これによって小売店や消費者からクレームが持ち込まれた場合、どの農家がいつ出荷したものかを迅速に特定できるようになった。翌07年からは、生産履歴の記帳を義務づけている。このように安全安心にむけての体制を着実に固めてきた。これらが評価され、2007年度の日本農業賞特別賞(第37回)を受賞した。

生産者が消費者に訴える初の販促

「ところがこうした取り組みが消費者まで伝わっていない。これが大きな課題でした」とJAとさしの販売課門田辰也係長は話す。「安心安全を考えてこういった取り組みをしています」、「こういう食べ方をしてください」ということを消費者に直接ピーアールしていく必要性を感じていた同JAは2008年、土佐市が実施する事業(「土佐市いいものブランド化支援事業」)を活用し、消費者を対象とした販促活動をおこなうことを決定した。これによって100万円が予算化され、販促物(パンフレット、ポスター)作成、販促部隊が身につけるジャンパー、販促部隊の出張旅費などが充てられた。不足分は同JAピーマン部会の部会費を充当した。

ところで、同JAはこれまでにピーマンの販促活動に力を入れてこなかったわけではない。むしろその逆で、06年より高知県や園芸連の支援を受け、卸売市場や仲卸業者、量販店のバイヤーを産地に招待して部会の活動状況を説明したり、ピーマンのほ場で天敵防除を導入して栽培している様子をみてもらったりしてきた。だが、あくまでもJAと実需者間の交流にとどまっており、JAの先にいる農家、実需者の先にいる消費者が直接交流をする機会はなかった。「ピーマンの需要を拡大するためには、“農家は農産物を作る。売るのはJA”というこれまでの役割分担から脱却する必要がある」(門田係長)といいう認識に立って、農家が消費者に直接訴えかけていく行動につながっていった。

2. 活動の概要


ココスナカムラ青戸店(東京都葛飾区)

販促活動は東京都にあるスーパー2店舗(08年12月実施)、地元のスーパー1店舗(09年03月実施)の計3店舗で実施することになった。店舗の選定はJAと園芸連で協議して決定した。園芸連では「エコシステム栽培」として認証を受けている農産物の流通に関し、できるだけ販売先を固定化する方針を立てており、単発のイベントに終わらせないために、通常高知県産のピーマンが販売されている店舗が選定された。

東京の2店舗については、生産者6名(いずれも女性)、JA職員2名、普及指導員1名の計9名が参加した。地元の1店舗については同JAの女性部(部員約30名)の全員が参加した。

各店舗では、おそろいのジャンパーを身につけた女性農家が自ら開発した料理の試食・販売をおこなうとともに、アンケート用紙の記入を要請するなど消費者の意見をできるだけ聞きだすことに重点をおいた販促をおこなった。

3. 量販店における販促活動の内容

想像と違った消費者の反応


サニーマート土佐店(高知県土佐市)

今回の販促活動のためのレシピは、女性部自らが考案・開発した。当初から大消費地東京で販促活動をすることを念頭においていたため、「ピーマン産地としての高知を知ってもらう」「地元で普段から食べられている料理」をコンセプトにレシピ開発をしたという。この結果「ピーマンとじゃこの落花生のカレー炒め」と「ピーマンそばサラダ」の2品を紹介することにし、パンフレットにもこの2品の作り方を載せた。

実際の販促イベントでは「ピーマンとじゃこの落花生のカレー炒め」を試食してもらいながら売り込みをした。参加した門田係長によると「ピーマンは子供が嫌いな野菜の代表というイメージがあったが、自分たちが想像していた反応とは違っていた」と話す。

試食を食べた消費者のなかに「こういう食べ方なら子供たちも喜んで食べてくれそうだ」と購入していった人が少なからずいたという。また、親子が売り場に立ち寄り、試食を差し出されると「この子はピーマンが嫌いなのですが・・・」と親がためらいつつも子供に「食べてみる?」と聞くと、その子供がおいしそうに食べるという場面もあったという。

それとは逆に、試食を差し出すやいなや「あなたピーマン嫌いよね」と食べずに通り過ぎる親子もいた。もっとも当の子供は食べたそうで、後ろ髪を引かれながら売り場を後にしたという。

最初は消費者との会話をためらっていた女性部員たちも徐々に、会話をするようになった。門田係長によると、消費者が農家に必ずする質問のひとつが安全性に関することで、「農薬は使っていますか」という質問だった。その次に多い質問が「どうやって食べるとおいしいですか」という質問だったという。農家の話に熱心に耳を傾ける消費者の様子を横で見ていた門田係長は、「消費者が農家本人から話を聞きたがっているのだなということを実感した」と振り返る。

アンケート通じ消費動向つかむ

来場者を対象に配布したアンケート用紙は、3回のイベントで200枚を配布した。調査内容は下記の通りだった。3月末日を回収の締め切りとしており、調査時点(3月11日)では30%の回収率とのことだったが、ある程度の傾向はつかむことができたという。

ひとつは地元消費者には天敵防除を導入していることがある程度認知されていたが、東京の消費者の認知度が低かったことだ。地元ではテレビニュースなどを通じ、かなり認知されている天敵防除への取り組みが、東京ではまだまだ知られていないことがはっきりと数字に出た。また量目に関する設問もしており、現在、高知県産のピーマンは1袋4〜5個入り(150グラム)だが、「3〜4個(100グラム)程度が買いやすい」と答えた消費者が多かった。「使い切れる量、食べ切れる量を求めている消費者が多いということがわかった」と門田係長は話す。

記 アンケート調査内容(JAとさし作成)

(1) ピーマンをお買い求めの時に何を基準にしていますか?
・安心安全   ・産地   ・価格   ・見た目   ・その他
(2) 現在ピーマンは1袋4〜5個入り(150g)ですが、お客様がお買い求めやすい量はどれぐらいでしょうか?
・3〜4個(100g) ・4〜5個(150g) ・5〜6個(200g) ・6〜7個(250g) ・その他
(3) ピーマンを使った料理を月に何回ほど作りますか?
・1〜2回    ・3〜4回    ・5〜6回    ・その他
(4)私どもの天敵虫を使った栽培(エコシステム栽培)方法などの取り組みをご存じですか?
・知っている   ・聞いたことはない ・全く知らない

4. 販促の成果

食育を踏まえた販促が重要

今回の販促活動で得られた最大の成果として、門田係長は「農家の間に“消費者の意見を聞こう”という気運が高まったこと」だと指摘する。東京での販促を終えた後、地元の量販店でも同様の販促活動を実施した。東京とは違って参加する人数を限定しなかったこともあったが、女性部が自発的に販促に参加し、全員で試食宣伝をした。女性部の間では「順番でもいいから(東京に行って)販促をしよう」という話が出ており、JA側も「東京での販促は今後も実施するつもり」(門田係長)と話している。さらに同JAでは09年11月に、流通関係者に加えて消費者を産地に招き、生産現場の視察、農家との情報交換をおこなう予定だという。

販促活動をおこなってみて、生産者の間で「食育の重要性を再認識」したという意見も出たそうだ。試食を差し出すと「うちの子はピーマンが嫌い」と考えている親であっても、「食べてみる?」と水を向ける親がいた。一方では、子供が試食するチャンスさえ奪ってしまう親もいた。単に「高知産のピーマンを知ってもらう」という位置づけにとどまらず、「こういった料理法ならピーマン嫌いも克服できる」といったレシピを開発するなど食育の側面も販促活動には求められる。こうした取り組みが、消費拡大に欠かせないことを生産者自身が実感した。わずか3回の販促活動だったとはいえ、生産者が得たものはきわめて大きかったと思われる。

5. まとめにかえて

以上が、JAとさしが実施している販促活動の概要と成果だが、高知県が実施しようとしている“野菜のソムリエ(ベジタブル&フルーツマイスター)を活用した販促活動” が持つ可能性についてふれてみたい。

生産者が消費者に直接訴えるというアプローチは、JAとさしのみならず高知県としても実施している。09年3月11日には、高知県産の園芸品目を取り扱う仲卸業者がキュウリ産地(JA春野)とピーマン産地(JAとさし)を訪れ、産地交流会がおこなわれた。

特筆すべきはこの産地交流会に東京在住の野菜ソムリエ3名が参加していたことだ。高知県では、園芸品目の需要拡大のために消費者側からのサポートが不可欠と痛感しており、今後は食べ方の提案、農産物や農業に関する情報発信という点で、野菜のソムリエが多くの役割を担っていくだろうと期待している。不特定多数の消費者を対象とした販促活動と同時並行で、消費者の近くにいながら、野菜の栄養や食べ方に対し見識を持つ野菜ソムリエを同県産の園芸品の需要拡大のサポーターと位置づけようとしている。

今回の交流会に出席していた野菜ソムリエのなかに、企画関係の仕事に就いているという人が参加していた。スーパーや量販店から依頼を受け、販促の企画・立案もおこなっているという。

彼女によると、“農産物単品の販促をする”ということよりも消費者が関心をもってくれるように“食シーンにあわせた提案”が求められるだろうと話していた。彼女が実際におこなっている販促の手法を聞いてみたところ、次のような答えが返ってきた。

<農産物ではなく食事としての販促>特定の野菜を使ったレシピで試食販売をするのではなく、ワインと一緒に販促をし「ワインにあう料理」「この料理に合うワイン」というように、食が楽しくなるようなシーンを想像して販促をする

<小売店の客層、グレードに沿った販促>小売店によって客層、コンセプト、商品のグレードが異なる。ひとつの野菜を売り込むためにレシピを開発し、試食販売する場合も、客層によって使われる材料、予算が異なってくる。こうした点を事前にしっかり打ち合わせ、大衆的な小売店であれば、手に入れやすい材料でレシピ開発をし、グレードが高ければ多少高級な材料を加えるなど客層にあわせたレシピ開発が重要だろう。

<景気やイベントを踏まえた販促>不況、不景気といった経済状況によって販促のあり方も変わってくる。景気が悪い時は、手に入りやすい材料を使いながらも、豊かな気分になれるようなレシピが有効だろう。また09年のバレンタインは土曜日だったこともあり、家族でバレンタインを送る「ファミリーバレンタイン」というコンセプトでレシピを開発したという。

野菜ひとつとってももっともおいしい食べ方、料理方法を熟知しているのは生産者自身である。その点で生産者家自身が小売店で販促活動を行うのがベストだろう。しかし高知県の担当者によると、「産地としてイベントを開催したいのは出荷量がもっとも多いピーク時。だがこの時は農家も作業が忙しい時期で、なかなか消費地に出向くことができない」という現実も抱えている。こういった場合、産地や食べ方を熟知している野菜ソムリエに販促活動に参画してもらうということは、農家にも消費者にもメリットがあるだろう」と話していた。

添付資料:JAとさし女性部が開発したレシピが載ったパンフレット「とさしのピーマン」


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