野菜等健康食生活協議会事務局は2013年3月31日をもちまして解散いたしました。このコンテンツは、それまでのアーガイブになります。


現在表示しているページ
HOME >野菜・果物の健康維持機能に関する研究動向 >果物の機能性に関する研究動向 > 骨の健康とカンキツ

野菜・果物の健康維持機能に関する研究動向

5. 果物の機能性に関する研究動向

c. 骨の健康とカンキツ

みかん

近年、果物の摂取が健康な骨の形成・維持に重要なのではないかとする多くの疫学研究結果が報告されるようになってきました(疫学研究でみる野菜・果物摂取と健康の関係:果物摂取と健康との関係「骨の健康」も参照)。果物にはビタミンC やマグネシウム、カリウムなどのミネラルが豊富に含まれるため、丈夫な骨の維持に重要と考えられていますが、それ以外にも近年ではカンキツ類に豊富なβ-クリプトキサンチンやフラボノイドの骨代謝に及ぼす影響が明らかになっています。

カンキツ類にはヘスペリジンやナリンギンというフラボノイドが多く含まれていますが、これらのフラボノイドが骨代謝にプラスに影響するのではと考えられるようになったのはある一つの論文がきっかけした。高脂血症治療剤として広く世界中で使われているスタチン系薬剤はコレステロールの生合成を抑制することで血中コレステロール値を低下させますが、マウスに投与すると骨量が増加するという論文が1999年に報告されました 1)

その後、多くの疫学研究が行われ、スタチン系薬剤を服用している人はそうでない人に比べて大腿骨頸部や腰骨等の骨折リスクが有意に低下するとの報告が数多く報告されました 2), 3) 。一方、カンキツフラボノイドであるヘスペリジンやナリンギンにもコレステロールの生合成阻害作用があり、ラットの血中及び肝臓中の総コレステロール値を低下させる作用が報告されています 4), 5), 6) 。このことからこれらのフラボノイドの骨代謝に対する作用について検討されています。Chibaらは、卵巣を摘出することで誘発させた骨粗鬆症マウスにヘスペリジンを慢性投与し、ヘスペリジンが骨芽細胞を活性化させ骨量の減少を抑制することを明らかにしました 7)

一方、ヘスペリジンは腸管からアグリコンのヘスペレチンとして吸収され、その後、グルクロン酸抱合体として尿中に排泄されますが 8) 、最近ではヘスペレチンよりもヘスペレチン-7-グルコシドの方が骨代謝により効果のあることが、卵巣摘除したラットを用いた動物実験で明らかになりました 9)

一方、ナリンギンについてはWongらが骨芽細胞を活性化させること、また移植実験から骨組織の形成にナリンギンが有効であることを報告しています 10), 11)

更に最近では、その他のカンキツフラボノイドとしてノビレチンの骨代謝に及ぼす影響についても報告されました。Murakamiらは卵巣を摘出した骨粗鬆症モデルマウスを用いた研究から、ノビレチンが破骨細胞による骨吸収を抑制することで骨密度の低下を抑制したと報告しています 12)

このように骨代謝に有望なカンキツフラボノイドですが、実際にこれらのフラボノイドが豊富に含まれるオレンジジュースやグレープフルーツジュースを用いた実験でもその効果が確認されています 13), 14), 15)

一方、カンキツ類、特に日本のウンシュウミカンに特徴的に多く含まれているβ-クリプトキサンチンと骨代謝との関係は国内で多くの研究が行われています。Yamaguchiらは大腿骨を用いた培養実験で、β-クリプトキサンチンが骨代謝マーカーであるアルカリフォスファターゼの活性上昇作用や骨中のカルシウム含量を高める作用のあること、また破骨細胞の骨吸収を抑制することを報告しています 16), 17) 。またこれらの効果は骨粗鬆症モデルを用いた動物実験レベルでも確認されたとしています 18) 。興味深いことにβ-クリプトキサンチン以外のカロテノイドではこのような作用は認められませんでした。

一方、β-クリプトキサンチンと骨密度との関係を疫学的に検討した結果がつい最近になって日本の研究グループから報告されました 19) 。ミカン産地の住民を対象にした調査から、閉経女性では血中β-クリプトキサンチンレベルが高いグループでは骨密度低値のリスクが半分以下であったとする報告です。この研究では毎日平均で271gの果物を摂取しているグループでも同様にリスクの低下を認めています。栄養調査の結果から、調査対象集団が摂取している果物では最もミカンが多いことから、筆者らはβ-クリプトキサンチンの豊富なミカンの摂取が閉経女性における骨密度低下に対して予防効果が期待できるのではないかと述べています。同様の研究として、Yangらは閉経した米国人女性を対象にした調査から、骨粗しょう症を発症している女性では、血中のβ-クリプトキサンチンとリコペンレベルが低下していることを報告しています 20)

国内の主要果実であるミカンには、健康な骨の形成・維持に不可欠なビタミンCやミネラル類が豊富であり、また近年、骨代謝に作用することが明らかになりつつある、ヘスペリジンやβ-クリプトキサンチンが豊富に含まれるため、果物の中でも特に効果があるかもしれません。

(文責 杉浦 実)


↑ PageTopへ ↑

a.発がん抑制効果の高い果実成分 |  b.果実由来発がん抑制成分の作用機構 |  c.骨の健康とカンキツ |  d.β-クリプトキサンチンの不思議 |  e.カンキツの循環器系疾患の予防作用 |  f.ノビレチンと美容 |  g.β-CRPの供給源 |  h.イチゴのビタミンC高含有品種の育成 |  i.食物繊維の健康機能性 |  j.葉酸 |  k.小さな脂肪細胞を作るカンキツ成分 |  l.ケルセチンの健康機能 |  m.三ヶ日町研究 |  n.果実類の抗酸化機能とORAC法による評価

 

Copyright(c) v350f200.com All Rights Reserved.