野菜・果の価値を再認識!『食育シンポジウム
 
【食にあるいのち】

辰巳 芳子氏 料理研究家/NPO法人 良い食材を伝える会会長理事
▲記念講演
辰巳 芳子氏
料理研究家/NPO法人 良い食材を伝える会会長理事
●野菜・果物の価値を再認識!『食育シンポジウム』
 
11月12日(金)には、“野菜・果物が果たす「食育力」や現代的価値を再確認”、“野菜・果物の摂取増で健康増進”を目的に、東京農業大学「百周年記念講堂」において『大根フェスタ記念 食育シンポジウム』を開催しました。大根はもちろん、野菜や果物が現代日本人の健康的な生活にどのように関わっているのかを、あらためて知っていただくよい機会になったかと思います。以下に、このシンポジウム内容をダイジェストでご紹介します。

 日本に大根が入ってきたのは今から1300年ほど前のことといわれています。今回大根フェスタの会場で多くの地大根を目にしたとき、私はそれを育てた生産者の方はもちろん、永々と大根を守り、ここまでの地大根を作ってくれた先人の偉業に感慨をうけました。展示場では38種類の大根を見ることができますが、それらには大根という植物の原質、風土、時間、人の営みによる進化が見受けられます。

  そこで私は大根の来し方と、今自分が存在するという事実を重ね合わせました。物事の真理は根源をたどらないと見失うものです。ここにおいでの特に若い方々には、ものの世界の原質は同時に、人間の実存全体の原質ということに考え及んでいただきたいと思います。私たちは大根の歴史に見習い、自分たちが持っている宝・本質の良さに気づき、それを傷つけず、守り育てる条件とはなんなのかを知っていかなくてはなりません。
今年の夏は不順な気候が続きましたが、先人たちは気候をいなす術を考えて、その上に日本の食文化が成り立ってきました。その道筋をたどるのと同時に、今後どのように受け入れて行くべきかがこれからの課題といえるでしょう。
津金 昌一郎 氏  医学博士/国立がんセンターがん予防・検診研究センター予防研究部長
▲特別講演
津金 昌一郎 氏
医学博士/国立がんセンターがん予防・検診研究センター予防研究部長
基調講演
『野菜・果物摂取におけるがん予防 その科学的根拠とは?』


●がんは予防が可能
 がんになることは遺伝で決まっており、その確率を下げることはできないと考える人たちがいます。最近ではゲノム−遺伝子の配列が全てわかれば、何歳でどのような病気になるかわかる、とする風潮もありますが、実はそのようなことはあり得ません。以下にその根拠をあげてみましょう。
昔と今の年齢構成が変わらないと仮定すると、胃がん罹患率は全体的に下がっており、一方で結腸がんや女性の乳がん、男性の前立腺がんは増えています。数十年間で日本人が罹患するがんのパターンが変わってきた原因は何でしょう。もちろん日本人の遺伝子が変化したというような事実はありません。では戦後何十年間で劇的に変化したものとは何かといえば、それは生活習慣です。特に食生活の欧米化が、胃がんの減少、前立腺がん・乳がんの増加など、罹患するがんのパターンの変化をもたらしているのです。

 生活習慣の違いでがんのパターンが異なってくる一つの根拠として、日系移民をあげることができます。日系移民はもちろん私たち日本人と同じ遺伝子をもっているのですが、ブラジル、ハワイなど移民先で生活習慣を変えた結果、がんのパターンが移住した国のがんのパターンに近くなっています。
もう一つの根拠は、一卵性双生児です。一卵性双生児は遺伝子の配列は100%同じですが、二人が同じがんになる確率は、遺伝性の強いといわれる、大腸がん・乳がん・前立腺がんでさえ1割〜2割ほどしかなく、ほかのがんに関しては1割を切っています。これは他人が同じがんになる確率とそれほど大きくは変わらないということです。
以上から、がんになる確率は遺伝的に運命づけられているものではなく、その人がどんな生活を送ったかによって変わってくるといえるでしょう。つまりがんは予防できるのです。


●野菜・果物摂取はがん予防に有効
 IARC(国際がん研究機関=WHOの一機関)における野菜・果物とがん予防の関連性を調べた世界の研究の評価から、摂取によって「確実」に予防できるという評価結果はでませんでしたが、「おそらく」予防するとされたのは、野菜に関しては食道がん・大腸がん、果物では食道がん・胃がん・肺がんでした。果物が胃がんを予防するというデータは、日本のコホート研究※結果でも出ています。またそのほかの部位のがんに関しても多くが、野菜・果物が予防の「可能性あり」という結果になっていることから、がんに関して、野菜・果物は予防的に働いているということが、国際的に定説となっています。また、野菜・果物はがんだけでなく、循環器疾患などに予防的に働くこともわかっているため、トータルな疾病予防の観点からも、野菜・果物を多く摂る生活は推奨されます。
 ただし、野菜・果物の中には様々な物質が含まれており、その中の何が本当にがんの予防に重要であるかはまだわかっていません。よって一つだけの野菜を毎日食べ続けたり、サプリメントで摂ったりするのではなく、いろいろな野菜・果物を食事からたくさん摂ることが、がんを予防するために有効であると考えられます。

※コホート研究:
疫学の研究方法のひとつ。多数の健康人の集団を対象として、最初に生活習慣(食生活、喫煙状況など)を調べたり生化学的データをとって、その後の一定期間の疾病発症を観察するもの。多人数を長期間観察する調査のため、多くは行われないが結果の信頼性は高い。

【パネルディスカッション『野菜の力、野菜の価値』

 パネルディスカッションでは、ジャーナリスト・中村靖彦氏の進行のもと、「野菜の栄養的価値」「野菜の流通」「食文化と野菜」「野菜が持つ食育の力」などをテーマに意見が交わされました。ここでは特に栄養的価値、食育に関するパネリストの発言をご紹介します。


●野菜の栄養価:まずはたくさん食べること―


稲熊隆博氏(カゴメ(株)総合研究所/主任研究員)

成人の1日あたりの野菜目標摂取量は350gですが、どの世代もこれに達しておらず2002年の平均摂取量は292gという状況です。ファミリーレストランのメニューについてくる小さなサラダは30g程度。これを10杯以上食べると思うと大変そうですが、茹でれば体積は1/3に減って食べやすくなるということを知っていただきたいと思います。

武見ゆかり氏(栄養学博士/女子栄養大学助教授)
茹でると溶け出す栄養素もありますが、食べることで摂取できる栄養素を大事にしてほしいと思います。細かな調理法を気にするよりも、茹でたり炒めたりしてかさを減らし、たくさん食べることを心がけるべきでしょう。そして食生活のバランスを整えていただきたいものです。


パネルディスカッション『野菜の力、野菜の価値』 パネリスト:(左から)進士五十八氏/ 稲熊隆博氏/武見ゆかり氏/藤井滋生氏/白石好考氏 コーディネーター:中村靖彦氏
▲特別講演 2
パネルディスカッション『野菜の力、野菜の価値』
パネリスト:
(左から)進士五十八氏/ 稲熊隆博氏/武見ゆかり氏/藤井滋生氏/白石好考氏
コーディネーター:中村靖彦氏

●食育:生産者への感謝の気持ちをはぐくむ

進士五十八氏(農学博士/東京農業大学学長)
世田谷区内のある小学校では、以前より水田で米作り体験、収穫の後には餅つき大会を行っています。単に農産物を作るということだけではなく、土地を借りている農家の人々への感謝の気持ちや、環境、土地の歴史を総合的に学ぶことができる授業であり、私はこれが本当の教育、食育だと思っています。

藤井滋生氏(イオン(株)SSM商品本部/農産商品部部長)
現在、食育体験学習や産地ツアー(収穫体験)などの食育活動を行っています。ここでは野菜・果物のもつ栄養素や機能などを知っていただくのはもちろんですが、同時に野菜や果物を作った生産者の思いを伝えています。我々小売店が行う食育活動では特に生産者と消費者を結ぶことが大切であると考えています。

白石好考氏(農業生産者/良い食材を伝える会会員)
現在、畑を生産の場としてだけではなく、教育の場として活用しています。学校が畑で食育を行いたいというときに、我々がプロとして野菜作りの手伝いをするのです。現在日本中の農家が取り組みつつありますが、私たちはこれを“食農教育”といっています。食する前の生産過程も、子どもたちに伝えたいと考えています。

 
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