ファイブ・ア・デイ事務局長 入谷靖子の社会視点で見る食育

  • 食育 その他 販促と切り離した食育体験学習を年間830回以上続けられるその仕組み

    2012年7月18日

    ~全国スーパーマーケット食育担当者の底力の結集~

    食育体験学習の様子(カスミ フードスクエア南柏駅前店)

    日本での5 A DAY活動は、食品関連企業、主に流通小売業(スーパーマーケット)と連携し、地域密着型の野菜摂取増進につながる草の根的な活動を展開しています。

    その一つが、未来を担う子ども(児童・園児)を対象にした「スーパーマーケット食育体験学習」です。学習場所は、会員企業のスーパーマーケット店頭。そこで販売されている、活き活きとした色とりどりの季節の野菜・果物を教材に用います。日常の食材が教材となり、スーパーマーケットというリアルな生活場所において、目で見て触れて、野菜・果物を食べる大切さを学習します。

    ファイブ・ア・デイ協会が各地域で業務提携を拡大してきた栄養士団体の管理栄養士が店舗に赴き、指導役を担当します。『管理栄養士が作った・考えた…』が流行りの昨今でありますが、当協会では、約10年前から活躍をいただいています。

    栄養士や管理栄養士のみなさんは、栄養や食生活の基礎知識を備えた有資格者ですが、子どもへの集団指導という点では、個別の栄養相談や健康相談と異なり“難しい言葉や表現を使わない” “集中させる技術(スキル)”が必要となってきます。しかも、指導者が先頭に立つ当プログラムは、講師のスキルが参加者の理解度を大きく左右します。彼らの『食べることの大切さ、正しい知識を伝えたいというプロ意識』が源となった、指導スキルの向上も発展の一つと言えるでしょう。

    筆者が子どもの頃には、「食育」という言葉も日常的に使われていなかったように記憶しています。時折、保護者について行くスーパーマーケットという場所で、学校で机をともに並べる友達と楽しく学習できる、とはなんとも画期的!

    しかし、この企画の実現には、学校へ案内・説明をする、日程を調整する、売り場に児童を受け入れる準備をする…その運営には大変な工数がかかります。が、現在では、全国47都道府県で年間830回、延べ25,000人以上の参加へと拡大しているのです。

    その背景には、販促と切り離した食育体験学習を地域で展開し続けてくれている、全国会員スーパーマーケットの食育担当者の力とそれを支える会員企業の経営陣の力が根底にあります。ここにご紹介したいと思います。

    まず、このプログラムの特長は、運営体制にあります。ほとんどのご担当者が、商品の売り上げや特定商品のPRという目的に一線を画し(二次的とし)、むしろ企業そのものの価値向上を狙う使命を掲げています。対象は、商品=利益ではなく、お客様なのです。

    食育のイベントを行うには、企画立案そのもの以上に調整や連絡にかかる時間=人件費が一番大きな見えないコストとなります。どこの企業でも、このコストを誰に代替させるかが課題となっています。しかし、日本全国の「5 A DAY食育担当」と呼ばれる会員企業のご担当者は、自身の複数の業務を抱えつつ、地域内の小学校や園への誘致や調整業務を無償で行います。いわゆる、商品の購買を握る商品部が主体となり、メーカーへ食育イベントを委託する形式とは異なる、“完全自立型のプログラム”なのです。外部に依頼した場合にどれほどのコストがかかるかを考えると、数字や規模では語れないものがあります。まさに、“社会で取り組む食育活動の形”と考えることができるのではないでしょうか。

    体験学習の実施に際し、スーパーマーケットのスタッフが
    児童の安全やプログラム進行の管理をサポートする
    (しずてつストア入江店)

    平成23年7月に会員の食育担当者向けにアンケートをとりました。その結果、継続して実施している企業は、「経営陣の理解がある」、「報告の機会がある」、「目標設定がされている」、と3項目ともに○がついていました。つまり、食育のご担当者が食育活動を継続的に実施していくには、経営陣の関与が大きいことが明らかになりました。運営者の影のご尽力、経営者の社会活動への高い理解は表には出ませんが、累積10万人を超える実績の裏にはこの力なくしてはないという敬意で一杯です。同時に、この食育活動を継続していくための、たゆまぬプログラムの改良、講師育成、全国会員との運営体制作りなど、普及活動を担う我々の役割も重く受け止めています。

    さて、プログラムの継続、発展のためには客観的評価が必要です。平成19年度には全国調査を行いましたので、評価の概略をご紹介します。

    参加児童の保護者の、食育体験学習を主催したスーパーに対する評価

    このプログラムは、教育者・保育者の満足度がきわめて高いのです。無償のプログラムには悪い評価がない、とおっしゃらないで下さい。教育者・保護者による無記名第三者の回答です!

    観察調査によると“日常の生活での果物や野菜の話題が増えた(関心の喚起)” “積極的に野菜をとろうとする傾向がみえた(行動変容)”と回答されています(上図。平成19年度当協会実施による食育体験学習に参加した児童の保護者500人へのアンケート結果より)。特筆したいのは、参加した児童の保護者の約98%が受け入れをした店舗の名前を認識し、うち約20%が「そのお店へ行く機会が増えた」と回答されている点です。企業の地域での社会貢献活動が、顧客の来店動機へとつながっていることが伺えました。

    さらに、一度ご参加された小学校、園(幼稚園・保育園)の約50%が、毎年の固定行事として地域の同じスーパーマーケットを訪問しています。教育者・保護者は、子どもの食に関する教育のニーズが満たされ、スーパーマーケットは、地域の顧客に日ごろの感謝をこめた社会貢献活動を具現化し、さらに参加者・保護者の来店意向の向上にもつながる結果となっているのです。

    大きな一発のイベントを設け、啓発教材を大量配布するだけならば、参加者を5万人、あるいは10万人に広げることも可能かもしれません。しかしこの活動は、地域の企業が主体となって、地域で育っていく子どもたちが参加し、地域在住の管理栄養士が対面指導を行う、という“地域循環型モデル”であることに大きな意義があるのです。

    平成23年度食育白書によると、「食育」という言葉の認知度は77.5%となりました。“食育=食べること”の教育ということが一般社会に通じるキーワードとなったのです。興味関心の高さからみると、集客や関連商品の販売促進のテーマにもなりうる時代がきました。これからの食育機会の提供はどうあるべきか。社会の中での継続的な食育プログラムの提供について考えていきたいと思います。

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